10年前に作ったパスポートが今年の3月に切れたので、私が最後に買った時計はこの頃のものだと思い出しました。飛行機の機内でこの時計を見つけ、都内の百貨店に買いに行ったのです。その後この百貨店の閉店とともに購入した店も消え、電池交換に困っていました。他の百貨店の時計店で時計を見せると断られてしまうのです。時計はずっと実家の引出しの中で止まったまま忘れ去られてしまいました。
そして9月の連休中、Mさん(20代・男性)が来院されました。Mさんは時計修理専門のお仕事をされて8年になるそうです。症状は首・肩・腰痛と前日の寝ちがいによる痛みでした。
毎日、目の高さまで両手を持ち上げ、上から覗き込むような姿勢でお仕事をされているそうです。
まず寝ちがいによる筋肉の痛みを取り、SS、R3と2。次回の施術からアトラス調整も行い、半分以上痛みが解消しました。
私は例の時計のことを思い出し、Mさんに電池交換してもらえるか尋ねてみました。時計店で断られたことを話すと
「見てみたいです」
と明るく言ってくださり、この言葉を聞いて「Mさんにしか頼めない」という気持ちになりました。
後日持ってきた時計を見せると、Mさんは目をキラキラさせて時計をじっくりと何度も見つめ、まるで別人のような顔をしています。時計の話をしているときも楽しそうでした。
次の施術日、時計は約10年ぶりに動いて戻ってきました。
長い年月、電池を入れっぱなしにしていたせいで内部が汚れ、電池を入れても動かない状態だったそうです。それを一つ一つ解体し、清掃と部品の交換までしてくれました。このまま放っておいたら完全に動かなくなるところを間一髪救ってもらい、電池交換のはずが患者様にとんだお仕事をさせてしまいました。
それなのにMさんは
「代金は要らないです」
とおっしゃるのです。初めから無償でこれだけの仕事をするつもりでいらっしゃったのかと思ったとたん、胸がじいんとなりました。
そして時計の修理が済むと同時にMさんは検査で陰性となり卒業、まるで時計が助けてほしくてMさんを呼んだかのようです。首や肩にかなり負担のかかるお仕事だというのに予想以上に早かったのは、お好きなお仕事をされているからでしょうか。
1ヶ月後に再検査に来られますが、私も時計のメンテをMさんにお願いしていくつもりです。技術を要する素晴らしいお仕事ですから、お支払いはさせていただきたいと思います。
私も「この人に頼みたい」と、患者様に思っていただけるよう頑張ります。
Mさん、本当にありがとうございました。良い方に出逢えた事を感謝します。