
「妻を診て頂きたいんですが」というお電話がありました。
痛めた腰がなかなか治らず悪化してきたそうです。
施術ベッドに寝ることも困難かもしれないと対処を考えていましたが、車で送られてきた奥様は杖無しで歩けていたのでホッとしました。
ご主人も一緒に入って来られ、付き添われるかと思いきや、一旦仕事に戻り後で迎えに来るとのことでした。
そして
「実は僕、以前こちらでお世話になったことあるんです」
と、ポソリ。
マスクで顔半分が隠れていましたが、苗字とマスクの目を見て思い出しました。
「あっ!元自衛官のKさん」
するとKさんは目元を緩めて
「自分がここで腰が治ったから連れてきたんです。」
と、ありがたいお言葉をくださいました。
引っ越されたのか年賀状が宛所不明で返却され、それからずっとお見えになりませんでした。
今でもよく覚えているのは東日本大震災直後にこの地域で計画停電が行われた日のことです。
前日の計画停電は予定に反して行われず、この日も19時からの停電は行われないとタカをくくっていました。
まさかこんな寒い夜に本当に停電させるなんて考えられないしな、と思っていたのです。
そして最後の患者様がKさんだったのです。
施術が終わりお支払いをしていると突然「バッ!」と電気が消え、辺りは真っ暗で外灯も信号も消えたのです。
元自衛官のKさんは頭バンド付きライトを車に常備していて、車に取りに行き戻ってくるまでに私は店の前を走り去る車のヘッドライトを頼りに着替えを済ませ一緒に店を出たのです。
ところがKさんの停めてた車が停電でコインパーキングから出られず、管理会社もお手上げで停電解除までロックは外せないという惨劇が起こったのです。
忘れられません。
そんなことを思い出しながら奥様を施術しました。
痛みが少し軽くなったようです。
「また来ます」
と言って奥様は、再び迎えに来られたKさんと帰っていきました。
私の寝室の枕元には、頭バンド付きライトがおいてあります。
このライトを見るといつも、あの停電から救われたことを思い出します。